広島県三原市にある「白滝山」
標高342mは数ある山々の中で決して高いとは言えない。
しかし、瀬戸内の沿岸部において、周囲を見渡すには十分な標高といえる。
山頂付近には古くからの霊場としての静けさが漂い、頂上に鎮座する巨大な花崗岩「八畳岩」からは、瀬戸内海から中国山地までを望める360度の眺めが広がっている。割と近くまで車でアクセスできる手軽さもあり、静かに過ごすには良い場所だ。
因島の「白滝山」との関係について
広島県内で「白滝山」といえば、しまなみ海道・因島にある五百羅漢の山を想起する人も多いかもしれない。しかし、今回訪れたのは三原市小泉町に位置する、もう一つの白滝山。
結論から言えば、この二つの山には直接的な関係はない。名前の由来はどちらも不明であり、開山の時期も、歴史的な背景にある宗教も異なる。
共通点を挙げるならば、どちらも古くから「山岳信仰」と「修験(しゅげん)」の場として、人々の祈りを受け止めてきた霊場であるという点。山中に一歩足を踏み入れたときに感じる厳かな空気感は、確かに通じるものがある。
なお、現在は災害の影響により幸崎方面の道路が不通になっている。このような状況が各地で増えているように感じる。足を運ぶ際は、事前に最新のアクセス情報を確認しておくことを推奨する。
駐車場からのアプローチ
白滝山の利点は、山頂の比較的近くまで車でアクセスできる点にある。整備された駐車場が用意されているため、心理的なハードルは低い。

車を降りて歩き始めると、参道の随所でお地蔵さまが静かに佇み、山門までの距離まで教えてくれ、細やかに道を案内してくれている。初めて訪れる者であっても道に迷うことはない。見守ってくれているようで、心細さを覚えることもない。
駐車場から最初のチェックポイントである山門までは、距離にしておおむね500m。数値だけを見れば短く思えるが、舗装されているとはいえ傾斜はそれなりにきつい。一歩進むごとに息が上がり、じんわりと汗がにじむ。数字以上の距離に感じられる、登りごたえのある坂道だ。

しかし、足を動かし続けるにつれて、視界は徐々に開けていく。瀬戸内海の風景や、隣接する竹原市の黒滝山が視界に入り始めると、身体の疲れが少しずつ相殺されていくのがわかる。
山頂付近に点在する3つのスポット
傾斜を登りきると、山頂の周辺には見どころとなるスポットが3か所現れる。
1. 展望台

尾根の先へと突き出た場所に、屋根と椅子、テーブルが備えられた展望台がある。景色を眺めながら一息入れるには最適な空間だ。海をより間近に感じられるロケーションである。 ここから見上げると、これから目指す山門と山頂の輪郭を確認できる。一見すると少し不安になるような高さに思えるが、実際に登ってみるとそれほど時間はかからない。

2. 龍泉寺と山門

さらに進むと、安芸西国第28番霊場として知られる「龍泉寺」の境内に至る。きれいに手入れされた敷地内には、ピリッとした静謐な空気が流れている。立派な山門が構えられており、門をくぐって振り返ったときに視界に飛び込んでくる絶景もまた見事である。

3. 山頂と八畳岩

山門を抜け、本堂の脇を進むと山頂へと続く山道に入る。ここへ来て傾斜は一段と厳しさを増す。息を整えながら進む道中、岩肌に直接彫り込まれた仏様(磨崖仏)たちが静かに登山客を見守っている。 最後の急坂を登りきった先が山頂である。そこには「八畳岩」と呼ばれる巨大な花崗岩の巨石が鎮座し、傍らには鐘とお堂が佇んでいる。
八畳岩の上でデトックス
八畳岩の上に立つと、遮るもののない360度の大パノラマが広がる。南には瀬戸内海の島々から遠く四国の山影までを見渡し、東には三原の市街地、北には中国山地のなだらかな連なりが視界を埋める。

この圧倒的な風景の中で、八畳岩の上に腰を下ろし、しばらくの間ただぼーっと過ごしてみる。
頭の内部に絶えずこびりついている仕事のこと、明日やること、日常の義務感が、風に吹かれて一枚、また一枚ぺりぺりと剥がれ落ちていくような感覚を覚える。
ふと目をやると、鳥たちが自分と同じ目線の高さを風に乗って飛んでいる。普段ならうっとうしく感じるはずの小さな羽虫がすぐ近くを横切っても、「ああ、虫か」と特に感情を動かされることもなくスルーできる。日常の生活のなかで抱えるモヤモヤとした悩みも、これと同じように受け流すことができればいい。そのような思考が、静かに頭をよぎる。

山頂の鐘を一度、響かせてみる。何とも厳かで慎み深い鐘の音が、遮るもののない四方の大空へと吸い込まれていく。自分のなかのちっぽけな悩みや迷いもまた、その響きの広がりとともに霧散し、消えていくようだった。

自身に特別な信仰心があるわけではない。それでも、古来の人々がこの山を特別なものとして崇め、祈りを捧げてきた理由が、ほんの少しだけ理解できたような気がした。
終わりに
三原市の白滝山は、駐車場から片道15分から20分ほどの手軽な歩みでアクセスできる場所でありながら、得られる静寂と景色の価値は非常に大きい。
頭の中を一度クリアにしたいとき、心の荷物を少しだけ下ろしたいとき。お地蔵さまに導かれながら、八畳岩を目指してみてはいかがだろうか。下山する頃には、心身が静かに調っているはずだ。
【白滝山(三原市) 概要】
- 標高:342m(山頂標識による)
- 所在地:広島県三原市小泉町
- 備考:駐車場あり、山門まで徒歩約500m
たびさんぽ