さんぽするようなのんびりたび

秘境のコンテナに人が群がる。広島・阿戸の「山創」。名水と無化調へのこだわり

広島市の東の端、東広島市と熊野町に挟まれた山あいの峠道。公共交通機関でのアクセスは極めて困難で、車やバイクが必須となる立地。見落としてしまいそうな田舎道を進むと、突如としてメタリックグレーの貨物コンテナと、そこへ吸い込まれていく人々の行列が現れます。

「ラーメン・焼き鳥 山創(さんそう)」

「なぜ、こんな不便な場所でラーメン屋?」多くの人が抱くであろうこの疑問こそが、山創の中華そばへのこだわりに繋がる最大の伏線なのです。

立地の理由は「阿戸の名水」にあり

飲食店にとって「立地」は命です。
通常なら駅前や大通りを選ぶところを、店主がこの地を選んだのには妥当すぎる理由がありました。それが「阿戸(あと)の名水」の確保です。

山創のスープは、ミネラルが豊富なこの地元の名水を使って丸一日じっくりと炊き上げられます。どれだけ優れた食材を集めても、その大半を占める「水」が合わなければ、理想のスープは作れない。この不便な峠道の麓という立地は、妥当な経営判断の逆を行く「最高のスープを作るために必要な選択」でした。

コンテナ店舗と、ジョッキで提供される水

お店の佇まいは、鉄道の貨物コンテナをリフォームした横に長いユニークな空間。一歩中に入ると、カウンター席のみのコンパクトな空間が広がります。

席に着くと運ばれてくるのが、ビールジョッキに注がれたお水。ラーメン屋としては珍しいこのスタイルですが、実はここにもお店の歴史が隠されています。

山創は元々は夜に焼き鳥などを提供する「居酒屋」としての顔も持っていました(看板に“焼き鳥”とあるのもその名残)。ジョッキの水は、まさに居酒屋時代を彷彿とさせます。

イメージを覆す、温かいホスピタリティ

これだけロケーションと味にこだわり抜いた店と聞くと、つい「偏屈な頑固親父が腕組みをして待っているのでは」と身構えてしまう自分がいます。

しかし、その予想は良い意味で完全に裏切られます。平日の12時前に訪れると、すでに2組の待ち。店舗の裏手の待合スペースにある券売機で食券を買い、ほどなくして店内に呼ばれると、店主をはじめスタッフの皆さんが非常に親切丁寧で、腰の低い温かい接客で迎え入れてくれます。

この卓越したホスピタリティがあるからこそ、限られた極小の空間(カウンター席)であっても、張り詰めた空気はなく、居心地の良さを感じながらラーメンを待つことができるのです。

無化調なのに「パンチ」がある、至高の一杯

いよいよ運ばれてきた中華そば。そのヴィジュアルから圧倒されます。

スープ(えんみと鶏の旨味、そして脂の調和)

一口飲むと、しっかりとした「えんみ(塩気)」の刺激が舌から全身へ走り渡ったあと、じんわりと鶏の旨味が追いかけてきます。豚骨特有の臭みはほとんど処理されており、表面にはしっかりとした脂の層が見えるものの、全体としては決してしつこくありません。後味が驚くほどすっきりしているのは、化学調味料に頼らない「無化調」の技法と、阿戸の名水が素材の雑味を綺麗に削ぎ落としているからでしょう。

ニンニクの仕掛け

デフォルト(標準)でトッピングされているニンニクが、このすっきりとしたスープにガツンとしたパンチとコクを与えています。スープを飲む手が止まらなくなる中毒性がありますが、かなりしっかり効いているので、食後に予定がある方はニンニク抜きにするなど注意が必要。

視覚と食感を満たす「ネギともやし」の山

器の表面を埋め尽くす大量の青ネギが、運ばれてきた瞬間に客の気持ちをトップギアまで盛り上げてくれます。そして、そのネギの山をかき分けると、下にはシャキシャキとした「もやし」が大量にホールドされています。濃厚なスープ、ジューシーで柔らかいバラ肉のチャーシューを挟みながら、この大量の野菜を絡めて食べ進めるバランスが絶妙です。

麺の存在感

スープを程よく持ち上げるストレートの中細(〜細)麺は、歯切れがよく、存在感のあるスープや具材に負けない確かな食感を残してくれます。

気づけば、普段はスープを残すはずが、最後の一滴まで器を傾けて飲み干してしまっていました。

目的地として、わざわざ訪れる価値

「大盛り(通常比1.5倍)」を注文しても、野菜の瑞々しさとスープのキレ、そして無化調ならではの食後の軽さのおかげで、最後まで飽きることなく、満ち足りた満腹感に包まれます。

効率や利便性を徹底的に排除し、「水」という本質のために山あいに身を置いた「山創」。 不便だからこそ、そこには「食べに行く」という明確な目的を持ったファンだけが集まり、だからこそ店側も最高の味と温かい接客でそれに応える。

ただのラーメンロードではなく、あの峠道を走る時間すらも「山創の一杯」を美味しくするための調味料に思えてくる、そんな名店です。車を走らせる価値は、間違いなくここにあります。

(駐車場は建物裏手に10台分ほどあり)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA



reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。