「アクセスが不便だ」「山の上にある」と、何かと言われがち。不憫でかわいそうな広島空港。1993年に市街地の観音からこの三原市本郷の地に移転して以来、その距離感は常に議論の的になってきた。

早朝に到着すると外の空気はひんやりと澄んでいて心地いい。だが、ターミナルの自動ドアをくぐると雰囲気が一変する。まだ売店すら開いていない時間帯だというのに、搭乗手続きや保安検査場には思いのほか多くの人が詰めかけていた。これは朝一番にほぼ同刻で2便が重なっていたためである。
その人波を目にした瞬間、早朝のさわやかさはどこかへ吹き飛び、一気に「仕事モード」へと引き戻されるのを感じた。
2021年の民営化以来、広島空港は「単に通り過ぎるだけの通過点」から「早めに訪れて過ごしたくなる場所」へと少しずつ姿を変えている。今回は、新しいカードラウンジ「YAMANAMI VILLA」を訪れてみた。
エスカレーターの先、光あふれる空間へ
かつての「ビジネスラウンジもみじ」を覚えているだろうか。保安検査前にあり、どこかシックで落ち着いた、よく言えば静か、悪く言えば「籠もり感」のある大人の隠れ家的な空間だった。
それがリニューアルに伴い、保安検査を抜けたあとの国内線3階へと移転した。このことによって、保安検査を先に済ませ、以前よりも時間的余裕をもってラウンジを利用することができるようになった。
エスカレーターに乗って上階へと向かうアプローチには、ちょっとした特別感がある。それでいて入口の開口部が広く取られており、気取った高揚感に気圧されることなく、すっと入っていきやすい。

敷居を跨ぐと、旧ラウンジとの違いに驚かされる。
大開口の窓からは太陽光が存分に差し込み、空間全体が非常に明るい。外にはデッキが広がり、目線の先にはこれから飛び立つ飛行機が佇んでいる。旧ラウンジの籠もり感も嫌いではなかったが、この開放感と「これから空へ向かう」という視覚的な期待感は、新しいラウンジならではの魅力だろう。

朝はビールか饅頭か
訪れたのは朝イチの時間帯。ちょうど2便がほぼ同刻に出発するダイヤが重なっており、ラウンジ内もそれなりに人がいた。それでも席数には十分なゆとりがあり、十数名の利用客が思い思いの時間をゆったりと過ごしている。なお、ここは館内アナウンスが流れないため、時刻管理は自分で行う必要がある。
窓の外を眺めると、同時刻帯に出発する機体が並んでいる。この場合、どちらが先発なのか、準備が整った順に出発するのか、自分の便が遅れはしないかといろいろな考えが頭の中をめぐる。
ラウンジの入場特典に「生ビール」「ワイン」「ノンアルコールビール」「お菓子」からひとつ選ぶことができる。これがプライベートの旅行なら、迷わず生ビールをいただくところ。しかし、今日はあいにく仕事。「まあ、しかたがない」と自分に言い聞かせ、特典はお菓子を選択。もみじ饅頭をいただくことができた。

静かに淹れたてのコーヒーを啜る。
これがまたおいしい。
甘いもみじ饅頭と苦いコーヒーの組み合わせが、少しずつ覚醒していく頭に染み渡る。朝のせわしない時間の中で、ささやかな満足感を得た瞬間。

「ちいかわ」と「ポケモン」に見守られて
搭乗時刻が迫り、ラウンジをあとにしてゲートへ向かう。指定された搭乗口で待っていたのは、ANAとコラボ中の「ちいかわジェット」だった。

アラフォー男が一人、愛くるしいキャラクターたちが描かれた機体へと吸い込まれていく。自分の場違い感を抱きつつ席に着き、ふと前方のモニターを見上げると、流れてきた安全ビデオは「ポケモン」だった。
ちいかわに囲まれ、ポケモンに機内安全を諭される空間。
期せずして日本が誇るコンテンツの洗礼を一身に浴びる形となったが、この非日常な癒やしのおかげで、仕事モードで少し強張っていた肩の力がふっと抜けていくのを感じた。

空港が模索する「活路」の先で
滑走路を離れた機体が浮き上がり、窓の外には見慣れた広島の山並みが遠ざかっていく。
立地の面などで様々な課題を言われ続けてきた広島空港だが、保安検査後のエリアを拡充し、搭乗直前の時間価値を高める取り組みは確実に実を結びつつある。「不便だからギリギリに行く場所」から、「少し早めに着いて寛ぎたくなる場所」へ。
翼の向こうに広がる雲海を眺めながら、変貌を遂げつつあるこの空港が切り拓く「活路」に、静かに思いを馳せる旅の始まりとなった。
たびさんぽ